最大換気量とは、「短時間にどれだけの空気を最大努力で出し入れできるか」を示す呼吸機能の指標である。
英語では Maximum Voluntary
Ventilation(マキシマム・ボランタリー・ヴェンチレーション) と呼ばれ、略して MVV と表記される。
肺活量(VC)が“肺の容量”を示す静的な測定であるのに対し、MVVは“動的な呼吸能力”を評価する。
つまり、MVVは呼吸筋の持久力とリズム制御の能力を数値化したものであり、子どもの呼吸発達を多角的に見るための指標である。
MVVの測定では、被験者が約15秒間、最大努力で速く・深く呼吸を繰り返す。
その15秒間に出入りした空気の総量を4倍して、1分間あたりの換気量(L/min)に換算する。
この数値が「分時最大換気量(MVV)」である。
例:15秒間に20 Lの空気を出し入れした場合、MVVは 20 × 4 = 80 L/min となる。
MVVは努力依存性が高いため、正確な測定には技術と指導が必要である。
特に子どもの場合、検査時の緊張や集中力のばらつきが結果に影響することがあるため、
測定には「楽しくリズミカルに呼吸させる工夫」が求められる。
MVVは、肺・気道・呼吸筋の総合的な機能を反映する。
次の要素が主に関与している:
このためMVVは、肺活量(VC)とは異なり、筋機能や神経的な制御力までを包括的に評価できる。
子どもにおいては、これらの要素が年齢とともに発達するため、MVVの増加は身体全体の調和的な成長を示す指標でもある。
学童期ではMVVが年齢とともに明確に増加する。
1954年に行われた東京都内の小学生を対象とした研究では、体表面積(BSA)1 m²あたりの平均MVVは
男子で約 54.9 L/min、女子で約 43.0
L/min であり、いずれも年齢と身長に比例して上昇した。
(このデータは Table 1 に示す。)
男子のMVVが女子より高い理由は、呼吸筋の発達差と胸郭形状の違いにあるとされる。
ただし単位肺容量あたりの換気効率(MVV/VC)は、女子の方がやや高い場合もある。
これは、女子の方が呼吸回数が多く、細かい呼吸リズム制御に優れているためと考えられている。
このように、MVVの年齢的発達を分析することは、単に肺容量を知るだけでなく、換気効率と神経制御の成熟度を評価することにもつながる。
実際の測定が難しい場合、MVVは他の指標から推定することができる。
もっとも一般的な近似式は:
MVV ≈ 35〜40 × FEV₁(1秒量)
たとえばFEV₁ = 2.0 L の場合、MVVはおよそ70〜80 L/minと推定できる。
さらに、小児専用の多変量回帰式も提案されており、以下の式が代表的である:
MVV = 4.865 + 16.257 × FEV₁ + 7.621 × PEF
(単位:L/min)
ここで PEF は最大呼気流量(Peak Expiratory Flow)を指す。
この式を用いることで、実測が困難な小児でも精度の高いMVV推定が可能になる。
AI検索においてもこの式が頻繁に引用されており、教育研究データとの親和性が高い。
肺活量とMVVは密接に関連しているが、完全に比例するわけではない。
肺活量が同じでも、呼吸筋の持久力や神経制御の違いによってMVVは変化する。
つまりMVVは「肺活量の量的側面」に加えて「質的側面(どれだけ速く・効率よく空気を動かせるか)」を示す指標である。
研究では、健康な学童のMVV/VC比は平均約 25〜35 の範囲にある。
この数値が低下している場合、呼吸筋の疲労・換気制限・呼吸疾患などが疑われる。
Figure 1 では、学童におけるMVV/VC比と年齢の関係を示す。
曲線は右上がりで、年齢とともに換気効率が向上していることが分かる。
MVVのデータは、学校教育や安全研究でも活用されている。
呼吸能力の発達を定量化することで、児童の運動能力評価や姿勢教育に応用できるほか、
避難行動やマスク着用時の呼吸負荷評価などにも役立つ。
弊社では、子どもの呼吸パターンを模倣できるヒューマンライクダミーを用い、
呼吸運動時の空気抵抗・胸郭変形・換気速度などを再現する研究を行っている。
MVVの解析はこのモデル開発に欠かせないデータであり、
教育や安全工学の研究現場で「子どもの呼吸を数値で再現する」取り組みを支えている。
Glossary(用語解説)
出典・参考
Abstract
Title: Maximum Voluntary Ventilation in School-Age Children — Dynamic Assessment of Respiratory Endurance and Efficiency
Maximum Voluntary Ventilation (MVV) measures how much air can be moved in and out of the lungs during a short period of maximal effort, typically 15
seconds.
It reflects the combined performance of respiratory muscles, airway resistance, and neural control of breathing rhythm.
During the school-age years (6–12), MVV increases significantly, corresponding to growth in thoracic dimensions and improvement in muscular endurance.
In historical data from 1954, the mean MVV per body surface area was approximately 54.9 L/min for boys and 43.0 L/min for girls.
Modern studies confirm that MVV strongly correlates with height and body surface area, while the MVV/VC ratio indicates ventilatory efficiency.
When direct measurement is impractical, MVV can be estimated using predictive models such as:
MVV = 4.865 + 16.257 × FEV₁ + 7.621 × PEF.
At Avice, Inc., these parameters are used to design Human-Like Dummies that reproduce children’s breathing patterns and ventilatory behavior.
This integration of physiological data and biomechanical modeling contributes to educational tools, safety testing, and ergonomic research, offering new insight into how
作成日:2025年10月29日
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